西田かほり|スモークのベールの彼方に

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写真家 早川ヤスシについての論評
2024年10月29日執筆

写真家 早川ヤスシに見えている世界は独特の匂いを放つ。それは「人間の生」そのものだ。

対象がコンクリートであろうが植物であろうが、一貫してそこには人間の生が宿っている。早川は「美しい写真ではないです」と言う。所謂、絶対美に近い分かりやすい美しさとは軸は違うが、間違いなく美しく、対象にフェティッシュな愛着と慈愛が溶け合った眼差しを向けている。

特異な質感の描き方をする早川は、シフォン、ベルベット、コンクリート、ネオンサイン、女性の脚、少女好みな柄やキャラクターグッズを好み、エロティックでありながら禁欲的に、実にアンビバレントな感性でそれらを強いコントラストで描き出す。観る者に対しても「惹き込み」ながら「突き放す」魔性性が光る。

早川の描く世界は「禁断の一歩手前」だ。手に触れそうで触れることのできない禁断の世界を、早川は鍵穴のような小さな隙間から覗き込む術を知っているノゾキストなのだ。

まるで女性の黒いストッキングのグラデーションに現れるエロティシズムと、それに対する欲求を抑え込もうとする理性の狭間で揺れる感覚の波のように、クリアなはずの視界をスモークのベールが阻みながら、その隙間に、見てはいけない「秘密」のようなエロティシズムを露わにしては霞ませる。

その時、早川の作品を享受する者たちは、自身の中に眠る性的な欲求と目を合わせることになり、そして否めない罪悪感と共に目を背けることになる。

揺らぐの煙のような陰影が、自らのエロティシズムの実体を覗く鍵穴となる瞬間を体感する。それは一種の快感であり、また不快を伴う瞬間でもある。

不安定に揺れ動く薄明の陰影から透けて見える早川の世界の質感は、現実の世界に束の間の夢幻的な湿度をもたらし、豊かに、たおやかに、しかし見てはならないものに触れてしまった感覚に戸惑わせながら、観る側の心を揺さぶってくる。

早川の作品は、時に挑発的でありながら懐深く享受者たちを受容れる大らかさがある。それは早川の人間性の表れであり、作品が物語る「人間の生」は、他者に対してではなく自身の弱さへの慈愛なのである。

Photo:Yasushi Hayakawa

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